（前略）次の日曜日、歩と満咲は理素奈の家に遊びに行くことになった。
理素奈の家はＪＲ山城中央から京都方向へ３駅ほど行ったところにある住宅街の中にあった。

「まぁまぁ、こんな元気のいいお友だちが２人も！　ヨカッタわねぇ、理素奈」

出迎えてくれたお祖母さんらしき人は、そう頓狂な声をあげて喜びを表した。

「皆さん、理素奈をよろしくね。
この子は引っ込み思案なイジメられっ子で、今までホントにお友だちも少なかった……」

「もぉ、おばあちゃん、余計なこと言わなくていいの！」

理素奈は家ではわりとハッキリものを言うようだ、と二人は思った。
幼いころ両親が離婚して父親に引き取られたという理素奈にとって、このお祖母さんはほとんど母親がわりだったのだろう。

部屋に案内されると、理素奈はおもむろにクッキーを盛ったバスケットを差し出した。

「ハイ、歩クン、これ私が焼いたのよ」

「うわー、おいしそう」

さっきエプロンをしていたのはこれを作っていたからか、と満咲は思った。

そう言われて満咲はあらためておやっと思った。

なんとなく歩と差をつけられているように感じながら、満咲は理素奈の想いを察しはじめていた。

（中略）

遠足から数日後、満咲はいよいよ見たくないものを見てしまった。（中略）

ピシャッと言ってやらねば。満咲は熱くなったが、相手には効かなかった。

（中略）

昼休み、理素奈は満咲の手を引っ張って、校舎の片隅まで移動した。

「ミサキちゃん、……さっきはありがとう」

「うぅん、気にすることないヨ」

快く応えたが、理素奈は他にもまだ言いたそうだった。

「あのね、ミサキちゃんさっき『好みのタイプの人を好きになるのは悪いことなんかじゃない』
って言ってたでしょ？　ホントにそう思う？」

「……うーん、思うから言ったんだけど」

「…………私ね、歩クンのこと、好きかもしれない」

「……そうなんだ」

満咲が平然と受け止めたことに、理素奈はやや意外そうな表情も見せた。（中略）

「やっぱり変なのかな。だって歩クンは女の子だし、私も女の子だから…………」（中略）

「ううん、ぜんっぜんヘンじゃないヨ！
　ソレはスバラシイことだよ。その気持ちを大切にしなきゃ」

「ホントに？　本当にそうかな……」

今度は満咲が歩を教室から引っ張り出す番だった。（中略）

「ねぇアユ、リソナのことどう思う？」

「えっ…………」

一瞬困った表情を浮かべる歩。

「……ぅうーん。ミサキさぁ、さっきたしか『好みのタイプの人を好きになるのは悪いことじゃない』
って言ったんだよね？（中略）もしかしたらボクにとって、リソナは“好みのタイプ”かもしれないと思うんだ」

「……そうなんだ」

満咲は半分拍子抜けした。

無理に今ここで自分が介入しないほうがよいと満咲は判断した。なんといっても先はまだまだ長い。
問題は二人が女の子どうしだということだが、それもクラスが好意的に受け止める方向に傾いている今、あまり心配いらないだろう。
あとはこれから二人で少しずつ気持ちを紡いでいけばいい。

だが意外にも歩自身は、強いこだわりを示した。

「でも、やっぱり変だよね。リソナは女の子で、ボクも女の子なんだし……」

「べつにいいんじゃない？」

「だからべつに気にすることじゃないヨッ」

「……………………」

歩はしばし沈黙した。そして胸に溜まった何かを満咲にぶつけてきた。

満咲は困惑した。

「どうして思わないのって……言われても」

「いや、オカシイよ、ミサキ。女の子が女の子を好きって言っても、ミサキは驚きもしないし……」

「…………」

「前にもボクが自分のことをボクって言っても認めてくれたし、サッカーや空手をやってたことにも何も言わなかったし……」

「だってソレは……」

「……………………」（後略）