「黒沢さんって、お弁当、自分で作ってるんだって」

「すごく女の子らしいところもあるのね」

「母子家庭で、お母さんを手伝っているうちに、お料理も自然に身に付けたそうよ」

「ん〜、なんかステキよねぇ」

昼休みの終わりに、大道具係の女の子たちが教室に戻ってきた際、そんな会話を交していたのを、
満咲もまたあわただしくしつつ耳にしながら、そういえばそうだなと満咲は今さらながら思った。
歩はいつもお弁当を持ってきていたが、一人暮らしなのだから、当然それは自分で作っているわけだ。
もちろん「お弁当を自作する＝女の子らしい」とは限らないだろうが、少なくとも歩は好んでしているのだろう。

（中略）

「おーいサクラぁ」

そのとき青木太陽が満咲に声をかけてきた。

「あっホントだ……」

劇の主役である桃太郎ことプリティピーチ役の四辻実穂が、今日は朝から欠席している。
体調でも崩したのだろうか？（中略）そうこうしているうちに迎えた放課後、満咲たちは
担任・島袋舞先生より衝撃的な事実を告げられた。

「さっきお家のほうから連絡があって……、四辻さん、当分は学校に来れないことになったの……」

「うん、それは……いろいろ事情があってね」（中略）

舞先生も困った様子だった。

「しようがないよ。人それぞれ事情があるんだし……。文化祭のほうはボクたちでなんとかしてみようよ」

おもむろに口を開いたのは歩だった。その言葉を聞いて理素奈と満咲は思い至る。

（あっそうか、アユが突然学校に行けなくなったのは……）

（……２年前のちょうど今頃の季節だったんだ）

翌日、世界史の時間を半分もらって緊急ホームルームがおこなわれた。

「というわけで、代役を立てるということでいいでしょうか……？」

学級委員・桜庭詩諳もいささか不安げだ。

「それに……」

セリフの他にもうひとつ問題点があった。
美少女フルーツ＜戦士＞の物語だけにアクションシーンも多く、相応の大立ち回りも含まれている。
ある程度の運動神経の持ち主でないとつとまらない。
その点四辻実穂は体操部で１年生として唯一大会に出場したくらいで適役だったのだが……。

（となると、もう選択肢はひとつだよね……）

ほどなくクラスの誰もが、ひとつの結論に達した。以心伝心のコンセンサスである。
真理子がそれを手続きに乗せる仕事を買って出るように手を上げた。

「えーと、代役は……黒沢さんが適任だと思います」

歩が誘拐犯を空手で撃退したことはみんな覚えていた。異論を唱えるものはいない。

「黒沢さん、どうですか？」

詩諳が半ば念を押すように尋ねた。

「ボク……やるよ」

何かの事情で急に学校に来れなくなった実穂の代役……。
歩もまた、それが自分の役目であるような気がした。

（中略）

デイジーカッターとサーモバリックを死闘の末に倒したフルーツ戦士たちは、ついに鬼大王を追い詰めた。

「武器を捨てて……、そして平和に生きるのよ」

「ぐわっ！」

鬼大王が苦悶の表情を浮かべた。

「地球の上に国境はないわ。これからはすべての人が幸せに暮らさないと」

「ぐぇぇ……」

さらに苦しむ鬼大王。鬼大王の中の悪の心が、本来の純粋な自由と正義を愛する気持ちと葛藤しているのだ。

「今よ、ピーチ。鬼大王の中の真の“鬼”を消し去るのよ！」

「わかった、グレープ。行くよ、みんな……」

「フルーツ戦士、最大の奥義っ」

５人の戦士は手を取り合うと、ポーズを決めて唱和する。

「フルーティ・ヒーリング・セラピー・イクスティンクション！」

「うぎゃあぁぁーっ……」

昇華する鬼大王。そして鬼帝国の民衆との和解……

（後略）