「もしやまた北の某国のしわざでは？」

噂が噂を呼ぶ中、政府も対策本部を設置し、緊急会議が開かれた。

「えーオホン、それではワシが本部長になった前首相じゃ。しかしなんで前首相が本部長なのかねぇ？　普通は首相じゃろぅ」

「前首相がわかりやすいキャラだからではありませんか？」

「どーゆー意味かね。まったくどいつもこいつもワシの内閣が密室で私生児のように生まれたみたいに言いよるし」

「それは非嫡出子への差別発言です、前首相」

「わかったわかった。それにしても若い女性ばかりが失踪するのはどうしてなんじゃ。
若い女性にいなくなられては、ますます少子化が進んでしまうではないか。
女性はなんといっても子どもを産まねば。子供を産まなかった女性は年金をもらう資格がないんとちがうか？」

「前首相、ソレも問題発言では……」

こうして政府の対策会議で真剣な議論がおこなわれているさなか、都内のとある名門女子大が謎の生命体に襲撃を受けていた。
翼のある身体。ヌメヌメした皮膚。赤く光る目。大きく裂けた口。この世のものと思えぬ不気味な姿である。

黄色い悲鳴がこだまする中、それは一人また一人、逃げ惑う女子学生たちを捕らえては喰らっていく。
頭からバリバリと丸かじりされた女子学生たちは跡形も残らない。微かな血痕と肉片以外は……。

「プハハーッ。ココニイルチキュージンドモハスコブルウマイ。ミンナクッテヤルカラ、ソコニナラブノダ！」

「いゃぁー」

「お母さーん」

逃げ遅れた女子学生たちが講義室の隅へ追い込まれた。

そのころ政府の対策会議に報告が入っていた。

「地球外生命体のことですヨ」

「宇宙人とはまた、人を食った話じゃーないか」

「うまい！　歌麻呂さんに１枚！」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」

「それにしてもエイリアンはどうして若い女性ばかり襲うんだ？」

「そりゃ若いほうが食べて美味しいからじゃろ」

「その発言はエイジングハラスメントでは？」

名門女子大を襲ったエイリアンは、今まさに追い詰めた女子学生たちを文字通り歯牙にかけようとしていた。

「フフフ、ダレカラクッテヤロウ……」

女子学生たちは皆、身を寄せあって震えている。

「ヨシ、オマエダ、オマエガイチバンウマソーダ！」

指名された女子学生は、合コンでも男子から真っ先に声がかかりそうな可愛らしい風貌だった。
セミロングのストレートヘアが微かに揺れている。
白いミニスカートからのぞく太股をエイリアンがセクシーと感じたかどうかは定かではない。

エイリアンは遠慮する素振りもなく、そんな彼女の腕を捕らえては首筋にかぶりつこうとする。

……と、そのときだった。

「ウギャ……」

エイリアンの様子が変化した。彼女から手を離し、苦しそうにもがいた。

断末魔の叫びとともにエイリアンは溶けて泡になってしまった。

それを見て彼女がつぶやいた。

「失礼ね。私は女よ。遺伝子はともかく、ちゃんと埼玉医大で手術もしたし、戸籍変更だってすんでるんだから！」

こうして地球を襲ったエイリアンの脅威は、ひとりのトランスジェンダー女子学生の活躍によって回避された。

　　　　　　　　　　　　　　　　＜おしまい＞