ポルノの規制はいかにあるべきか？

巷には、さまざまなポルノがあふれている。日本はポルノ天国だという、諸外国からの批判もある。

そんなポルノをある程度規制することには、むしろ賛成である。

しかし、その望ましい規制のあり方についていろいろ考えると、じつにさまざまなことが見えてくるように思える。

月刊『クリーム』といえば、いわゆる男性向けのエッチな雑誌のひとつである。

しかし、月刊『クリーム』は、他誌にはない傑出したコンセプトを持っていた。それは「少女を美しく撮る」「少女の持っている魅力を引き出す」というものであった。

このため『クリーム』は、結果として、非常に美しい仕上がりになっていた。

他のエッチな雑誌は、直接的な性交やそれに近い行為を演出した、さまざまな刺激の強い表現が中心になっていることが多い。そうした雑誌では、描写の主役はモデルの女の子ではなく、その女の子がしているエッチな行為そのものになっているわけだ。

これに対し『クリーム』では、あくまでもモデルの女の子が主役である。もちろんミニスカートやパンチラもある。水着や下着姿もある。その他エッチなポーズなども一部ある。しかしそれも、そのモデルの女の子の素敵な一面を誌上に表現するための手段に過ぎない。

目的としてのセックスは、誌面ではいっさい排除されており、したがってグラビアに男性の影はまったく写っていない。だから女の子が、男性に押し倒されたり、性器に異物を挿入されたり、身体を精液で汚されたりすることもない。

そんな、過激な手法を一切使わずに、10代後半を中心としたモデルたちの、青いエロスを伴った魅力を、そこはかとなく醸し出したグラビア群は、かくして、広い支持を集めることとなった。

そして、そうした『クリーム』の編集方針において、セーラー服やブルマーといった、制服系の衣装は、表現上、重要なアイテムになっていた。

それらを用いることによって、パンチラや下着を見せる必要すらなくなっている写真もあった。

セーラー服を脱がすのではなく“着せる”ことによって、ただ女の子が立って笑っているだけの写真が、言い様のない不思議なエロティックさを漂わせることが、ままあったわけだ。

ところが、である。

2000年１月号より、そのセーラー服・ブルマーなどの制服系衣装が、誌面から姿を消してしまったのである

もちろんブレザー型の制服であっても同様で、およそ女子高校生（中学生も）の制服・体操服を思わせる服装の写真は、完全になくなってしまった。

これは痛い。

『クリーム』の編集方針にとっては打撃である。

女の子がただ立って笑っているだけの写真で、服装が制服ではなく私服だと、不思議なエロスも半減である。なんだか気の抜けたビールのような、よくわからない表現になってしまうと言ってもよい。

それを補うためだろうか、2000年１月号以降のグラビアでは、若干、それまでよりも女の子の露出度が上がり、なんだか淫靡な雰囲気が入ってしまったようにも思える。

とにもかくにも、『クリーム』の価値が下がったことは確かである。

いったい、なぜこんなことになってしまったのだろうか。

いろいろ調べたところ、どうも、1999年秋に施行された法律、「児童買春・児童ポルノ禁止法」に、その理由があるようである。

「児童買春・児童ポルノ禁止法」は、それまで野放し状態だったそれらを規制する目的で作られたのは言うまでもない。

以下、同法の“児童ポルノ”の部分に話を絞って述べると、具体的には、18歳未満の児童を、性交やそれに類する行為をイメージさせる撮影に用いたり、性器等を触られたり触ったりしている場面を写したり、衣服の全部や一部を着けない姿を撮影してはいけないとされている。

このため『クリーム』においても、セーラー服の着替えシーンなどは“衣服の全部や一部を着けない姿”に該当し、またモデルの実際の年齢にかかわらず、セーラー服などの制服系衣装そのものが、18歳未満を連想させるものとして問題視される可能性が生じてきた。

つまり『クリーム』から制服写真がなくなったのは、この法律に抵触することを恐れた、表現の自主規制らしいのである。

…とはいえ、児童の性が商品化されることを規制し、もって児童の心身が傷つくことを未然に防ごうという同法の趣旨は、大変評価できるものと言える。

しかも、この法律が、ポルノの出演者の被害を防ごうというコンセプトに則っていることは、いわば画期的なのだ。

従来のポルノ規制は、ようするに性器や“結合部分”が「ハッキリ写って」さえなければよいというものであった。

今日のようにビデオ画面のデジタル処理技術が発達していない頃のブルーフィルムなどは、“写ってしまった”ら、もう使えなくなるので、カメラアングルなどを工夫し、ソコが写らないようにしつつ、見る人の想像力に訴えるようなつくりになっていたのではないだろうか。

そして、どうせ写さないのだから、出演する男女が実際に性交する必要もなかった。男優が「前張り」をするというケースも多かったように聞く。

だが今日のアダルトビデオなどは、ヤバイものが写り込んでしまっても、後でモザイク処理をすればよいため（むしろモザイク越しにうっすら見えることまで見込んで）、撮影現場ではメいっぱいの直接的な行為が実際におこなわれている。

例えば、男優が男性器を女優の女性器に本当に挿入することは、もはやあたりまえになっている。男優の男性器を女優の口に入れ、なめさせたり、また、そこで射精したりというシーンも、珍しくなくなって久しい。

射精といえば、女優の胸や顔に“出す”という演出も廃れてはいないが、最近はいわゆる「中出し」も流行っていて、最後は女性器から白い粘液がトロリと垂れているところを、モザイク処理を駆使してアップにした画面を売り物にしたシリーズなんかもあるはずだ。

これらは、妊娠や性病感染の危険を考えると、非常に問題がある。

だが、現行のポルノ規制は「ハッキリ写ってなければよい」なので、こうした行為は、後で画面処理をする限りは、まったく違法ではないわけなのだ。

つまり現行のポルノ規制は、ポルノによって秩序が混乱することから“社会”を守ることに主眼がおかれていて、ポルノへの出演によって人権が脅かされる［女性］を守ろうという視点はまったくない、のである。

そしてその点で、「児童ポルノ禁止法」は、多少なりとも出演者保護の視点が盛り込まれた、新しいタイプのコンセプトに立脚している点が評価できるのである。

もっとも、この法律だけが「そう」なのでは、やはり弱い。全体の法律体系の中でのバランスもあるし、「児童……法」では、18歳以上の人は救済できないことになる。

ポルノ出演者をはじめとするセックスワーカーの人権保護の遅れには、寒心を禁じえない。

これは結局、世の中が男性中心に動いていて、ポルノ製作の現場において、また法律の作成の場にあっても、やはり男性の論理が幅をきかせているからに他ならない。

大多数のポルノが下品で、女性の気持ちを顧みない描写になり、よって「青少年に悪影響を与える」ものになってしまう理由はそこにある。

そういう意味では、ポルノそのものは絶対悪なのではない。

ポルノを上手に使うことで、性生活を充実させることができれば、それは、人生をより豊かに生きることにもつながるはずである。

もっと、ヘテロセクシュアルでノンケの男性以外の、いろいろな人も楽しめるポルノが増えれば、ポルノをめぐる文化環境も向上するにちがいない。

いや、ヘテロセクシュアルでノンケの女性向けのポルノだって、もっとたくさん堂々と存在してしかるべきだろう。

こうした、多様なポルノが存在するようになれば、現在のポルノが抱える表現の問題は、相当に改善されるのではないだろうか。

そしてである。

そういう観点から見直すと、月刊『クリーム』は、やはり非常に好ましい、優秀なポルノであった。

まずもって、出演するモデルの女性の負担がいちじるしく少ない。

もちろん下着姿、場合によっては全裸に近い格好を写真に収めることの、社会的なリスクはあるだろう。が、しかし少なくとも男性の身体や精液に触れる必要がないため、妊娠や性病の危険にさらされることはない。

したがって『クリーム』は、出演する女性の人権に一定の配慮がされた内容のポルノになっているということができる。

また、『クリーム』のグラビアには男性の姿は写っておらず、もっぱら「少女を美しく撮る」「少女の持っている魅力を引き出す」というコンセプトで撮影された、美少女の姿のみが登場するのも、『クリーム』の特長であった。

これはじつは、ヘテロセクシュアルでノンケの男性以外でも楽しめる内容だということでもある。

例えばレズビアン女性にとって、一般的な男性向けのポルノは、「来る」ものがあるにはあるものの、やはり女性として見るにしのびない内容になっていることも多い。

女性が、もっぱら性の対象として性行為を強制され、男性に弄ばれている様を描いた内容は、やはり、女性としては不快だと言わざるを得ない。

その点、男性が登場しない『クリーム』のグラビアなら、モデルの女の子と読み手だけで世界を作ってしまうことができる。女性どうしの物語を想像してたのしむ上で、非常に好ましいつくりになっているわけだ。

だから、レズビアン女性の“隠れ『クリーム』ファン”は、多いと断言するにはちょっとリサーチ不足なのだが、おそらくそうではないかとは、じゅうぶんに推測できる。

ともあれ、こうした『クリーム』の在り方は、今後の、望ましいポルノの方向性を考える上で、重要なヒントを含んでいることは確かである。

しかしである。

そんな『クリーム』が、今回、「児童買春・児童ポルノ禁止法」の影響を、もっとも受けてしまったという現実には、矛盾を感じずにはいられない。

実際には、まだまだハードなポルノが流通しているのが現状である。

中には、モデルの年齢こそ18才以上なものの、撮影では高校の制服風の衣装を着せ、それを男性がレイプするという趣向のものも少なくない。

そうした内容のポルノが、現段階では何も変わっていない現状は、この国（に限らず）のポルノ規制のあり方の問題点を、象徴しているのではないだろうか？

くり返すが、出演するモデルが18歳以上であるだけで、女性が男性に弄ばれ、性器を凌辱され、最後は全身に精液をかけられて終わるという内容が認められるのに、単に女の子が笑顔でポーズをとっているだけの写真が、18歳未満がセーラー服を着ているがために規制を受けてしまうというのは、絶対にオカシイのである。