最近よく街で男性からナンパされる。

これは自分が男性から、ナンパの対象であるところの女性と見られている証拠であり、すなわち女装した自分の外見が他の一般の女性と同様に「女性である」と周囲に認められるだけのものになっている客観的証拠である。しかも一定水準以上に魅力的ということになる（もっとも男性が何を基準に女性を魅力的と判断するかには、またまたいろいろな問題があるが）。そういう意味では、なるほど嬉しい。

ただ私は男には興味がない。よく誤解する人がいるが、内面が女性だからといって、必ずしも性的性向が男性に向いているとは限らないのだ。身体が女性でもレズビアンの人だっているのだから当然であろう。

しかも声をかけてくる男性は実にさまざまで、中には若いサラリーマンや学生風の兄ちゃんもいた。その時はよほどお茶ぐらいつき合って、少しからかってやろうかと思ったりもしたが、相手に悪いと思って鄭重にお断わりした。しかし圧倒的に多いのは中年以上の男性、まぁ悪し様に形容するならばオッサンである。彼らは実にたちが悪い。先の若い男性らは、誘い方にもまだスマートさや清潔感がある。だが中年男性はベタベタなのだ。人込みを歩行中いきなり手を握ろうとしたり、突然「お茶行こう、ご飯食べに行こう、飲みに行こう」などとまわりをぐるぐるしながら誘ったりと、いきおい女の子が「何？この人？」と思わざるを得ないようなアプローチを仕掛けてくるのだ。お世辞にも魅力的とは思えない。下心見え見えである。

ただ断っても断っても、相手がなかなかあきらめないときがある。

先日ちょっと郊外まで用事で行った帰りである。駅へ向かって歩いていると突然、自転車に乗った中年男性が「お茶飲みに行こう！」と声をかけてきた。見るからに怪しげなハゲチャビンで、目付きがいかにもいやらしい。即座に断ったが、あきらめてどこかに行くかと思いきや、つかず離れずついてきて、機会あるごとに「ねぇねえ行こうよ」としつこく誘うのだ。無視して歩き続けたが、向こうは自転車。機動力では圧倒的に不利である。しまいには「お小遣いあげるからぁ」と言い出すし、私がかなりきつく拒否しても「そんなこと言わないでぇ」と懲りる様子がないのだ。

こうなると、これはもう立派なストーカーである。単なるナンパではなく、もはや犯罪の範疇に属している。

結局このときは、私が駅に着くまでつきまとわれ、そこでようやくあきらめたようであった。私も電車の中まではついてこないだろうとタカをくくっていたのだが、さすがに道中があれだけしつこかったので、幾駅か過ぎてもしばらくは警戒を解けなかった。

後で考え直したのだが、もしあれが夜道であったり、昼間でももっと人気のないところだったりしたらどうだっただろう。かなりの危険を感じるシチュエーションだったのではないだろうか。相手が尋常でない以上、常識に収まらない行為に及ぶ可能性は大である。

私の場合は、いざとなれば正体をバラすという奥の手がある。両刃の剣ではあるが、その分効果も高い。なにせ股間の持ち物は相手と同じなのだ。しかし本物の女性の場合、当然その手は使えない。したがって、こうした危険にさらされた場合、最悪どうなるかわからない。

しかも生活のすべてを女性の姿で過ごしているわけではない私が、これだけこんな目に合うのだから、本物の女性がいったいどれくらいの頻度でこうした経験をしているかは、想像に難くない。

私も中身が女性である分、一般の男性よりは女性の気持ちがわかっているつもりでいたが、女性がいかに痴漢やストーカー・その他の暴力に対して神経質になり、常に警戒感を持つことを余儀なくされているか、これは女性の姿を手に入れて街へ出て、今回のような体験をした今、あらためて考えさせられた問題である。

このように女性が皆、常に男性からの脅威にさらされ、平穏を侵害される恐怖を抱いていることを、世の男性はもっと知るべきだ。