最近、私の性欲が減退してきた。

「そりゃ、あんた、トシのせいだよ！」

…申し訳ない。誠にごもっともです。

たしかに高校生のころなどは、毎日オナニーしても追いつかないくらいビンビンだったもんなぁ…（な、何を書いてんだ…(^o^)）。

しかし、どうも話はそれほど単純ではないようなのだ。

年齢が原因の“精力”の減退というのもさることながら、むしろ減退しているのは“性欲”、もう少し詳細に言うと“「男性」として「女性」とエッチしたい欲求”そのものなのである。

“精力”の減退なら、例えば「まむしドリンク」の類を飲むなり、いろいろな対処法もあろう（もっとも、あんまり男性ホルモンっぽいものは摂取したくないという、ＴＧ固有のジレンマもあるが）。しかし性欲そのものとなると、ちとやっかいだ。このままでは夫婦の営みにも支障が出かねないのだが、原因究明と対策はなかなか進まない。

結婚したため、双方が合意すればいつでもデキるようになった。そこで、いつでもデキるんならいつでもイイか…と、セックスに対する執着がなくなったというのもあるだろう。京都に住んでる人が、案外金閣寺に行ったことのないのと同じである。

ジェンダートランスファリング生活が本格化し、性欲までもが心理的に女性化してきたという仮説もまた、じゅうぶん成り立つだろう。これは見方を変えれば、私の性欲が本来の在りようになっていっているとも言える。

関連して、別項で述べたような男性からの痴漢行為・ストーキング。これらに対する嫌悪感が、自らの男性性欲に対する罪悪感につながっているというのも考えられる。

私はコンビニ食などにはあまり漬かってないほうなので、まさかとは思うが、今話題の“環境ホルモン”の影響だという可能性も皆無かと言えば、そうではない。

おそらくは、こうしたさまざまな心理的・生理的な要因が、複雑に結びついた結果だとは思う。

ただ…、こうやって考える過程で、ひとつ思い当たったことがある。それが今回の問題の大きな背景になっていなくもなさそうなのだ。

つまりだ。私の性欲は、たとえ女性を指向していても、一般の男性のそれとは、やはりなんらかの点で質的に異なっているのではないか、ということだ。

思えば思春期以後、友達とエッチな話題でもりあがる機会は多々あった。しかしその時に他のみんなとの微妙な感覚のズレを覚えることも、今にして思えばたしかにしばしばあった。

高校時代のオナニーも、友達はエッチな雑誌の写真などでグラマーな女性を目で見てオカズにしていたようだが、私はクラスメイトの女子の普段の制服姿や体操服姿を思い浮かべて妄想するほうが好きだった。

（え？、そのほうが極悪非道？、え？、しかもブルセラ趣味の変態！…ですか？、ご、ごもっとも！、すみません、ゴメンナサイ！、…抗議続出(^_^;)、ここに謹んで懺悔いたします）。

逆に、「テニス部の＊＊さんって、かわいいゾ」などという話題には違和感を抱いた。これはもちろん言外に「しかるに一度、一発やってみたいものだ」というニュアンスを含んでいる場合である。私は、なぜそんなにも、女の子を単なる性の対象としてとらえてしまえるのか、いまひとつ納得し難かったものだ。

大学生になると周囲はさらにエスカレートして、「沖縄で、毎晩日替りで４人の女の子とヤッてきた」（人呼んでこれが“ヤルパックツアー４発５日”）といった自慢話が飛び交うこととなる。中には、半分以上力ずくだったり、口八丁手八丁で相手を丸め込んだケースもあった。私にはこれらは、女の子をうまくだまし、自分の欲望を満たすために利用しているだけとしか思えず、どうしても賛同できなかった。少しだけ羨ましくもあったのだが、ではなぜ自分には、うまくそれができないのかという点については、この時点ではまだ答えが出ていなかったわけだ。

アダルトビデオについても、もっとも時間を割かれている、いわゆるカラミのシーン、つまり出演女優と男優の本番セックスシーンは、全然おもしろくなかった。他人がベッドの上でナニしている映像を見たところで、別に自分が気持ちいいわけではないと思うのだが、はたしてアレは、あんなにも延々と入れる必要のあるシーンなのだろうか。

かといって、ビデオの冒頭などによくある女優へのインタビューなども、くだらないとしか思えない。インタビュアーの男性の質問がまったくもって自分の欲望本位で下品で、その上ありきたりな内容なので、しょーもないことはなはだしい。

私としてはアダルトビデオには、もっと、女の子の恥ずかしさや切なさや悔しさが伝わってくるような描写を期待していた。今にして思えば、そういった女の子の気持ちに感情移入することで、私はカンジルのであった。つまり私は、アダルトビデオをそういう女の子の視点に立った心理的なツールとして利用しようとしていたわけである。しかしそういう描写は、時間にして非常に希少で、まったくないこともあり、せっかく借りてきたビデオがハズレのことも多々あった。

（そんなにアダルトビデオ見てたのか、おのれはっ！…とまたまた抗議続出(^_^;)。そ、そんなには見てませんし、もう卒業しました…と言い訳するともりん(^^ゞ）

普通の男性の場合、むろん好みに合う合わないは多少あっても、借りてきたビデオが全くハズレになるということは、そうそうはないのではないだろうか。私の場合、ビデオの楽しみ方もまた、他の男性の平均的それとは違ったようなのである。

以上のようなことから、一定の傾向が読めてくる。

普通は男性は、女性の身体そのものに性的魅力を感じる。それゆえ女性との物理的な結合を、最終的な至高の目的とするのだ。だがＭｔＦのＴＧである私にあっては、女性との心のつながりを通じて性的快感を獲得しているのではないだろうか。つまり相手の女性の内面に触れ、その感情を摂取し、自己と同一化することによって、相手との一体感を覚え、その感情の種類に応じた興奮を得ているというわけだ。

また、女性の身体そのものを求める男性は、女性に対する支配・所有の欲求があり、性的な場面では女性をモノとして評価する傾向があるはずだ。が、私の場合はやはり、相手が心を開いてくれることが重要なポイントになるため、対等な人間関係を望むことになるようなのだ。そういえば、「不思議ね。アナタにはなぜか何でも気軽に話せてしまうわ…」と、伝言ダイヤルで知り合った女の子から言われたこともあった。…ホテルで。

（そ、そんなことまでしていたのかっ、オマエは！、怒りの抗議さらに殺到！。まぁすべては現在に至るまでの過程での過ちということで…(^_^ﾒ)）

また街行く女性に心引かれる場合でも、一般男性にとっては結局は服の下の裸体に意義がある。しかし、私は服装やそこから醸し出されるその人の想い、ひととなり、背っている人生…などに魅力を感じる。また、なりたい自分へのあこがれという側面も大きいだろう。キレイだな、かわいいナ、あんなふうに自分もなれたらな…という思いである。

これらの傾向は、絶対ではないものの、どうやら一面の真実ではありえるようだ。

そしてこのことから、冒頭の疑問、なぜ私の性欲が最近減退してきたか…に対する、恐るべき回答も引き出されてしまう！

つまるところ、「私が女性に求めていたもの」は、自分自身が女性なら、すべて自己供給が可能なのだ。

自分が女性なら、女性の気持ちは自分の気持ちがそうなのだし、女性の姿も自分がすればよい。

ジェンダートランスファリング生活が本格化してきたのと、この性欲の減退が、ほぼ時期的に一致するのも、そう考えればうなずける。

もちろん、人間は一人では生きていけないなどとよく言われるように、他者に期待するもの・他者から学ぶもの…などは、自分のジェンダーにかかわらず存在するものなので、私が「他の女性に求めるもの」も、これは私が女性化したとしてもなくならない。したがって、そこから派生する性欲も、ゼロになることはない。

また夫婦の性生活のありようも、２人が愛し合っていることを前提に、さまざまなスタイルが話し合われてしかるべきものだ。これはどんな夫婦でもそうだろう。２人が満足できる方法を探せばよいのだ。

ともあれ、こうして見てくると、トランスジェンダーの性が、やはり単純明快とはいかない難しいものを抱えているのは、まちがいないようである。