最近、私の性欲が減退してきた。

…という書き出しでは、別項でも一度書いたことがあるのだが、あれを書いてから、はや半年以上が経過しており、今では、ますます男性性欲が減退している。

女性に対して興味がなくなったわけでは決してないのだが、特に言えるのは、どうもペニスを女性器に挿入したり、そこで射精することに、昔ほど“ロマンを感じ”なくなっているということなのだ。

ソレ以外の、もっと「肌のふれあい」に近い行為のほうが、むしろ欲求に合っていると言ってもよい。

そしてこの原因として、女性として生活するようになったことによる、精神的な変化があることには、すでに触れたし、また別に述べた肉体的な変化もまた、影響を及ぼしていることは、今では想像に難くない。

我が配偶者の証言によれば、最近は寝言を言うときも完全におんなのこモードで言っているらしいし、私の体臭までもが以前と違ってきているとのことだ。

人工的なホルモン投与をしなくても、そこまで変わるとは、気の持ちようとは、げに不思議なものである。

ともあれ、そんなこんなで、勃起力や射精力に根本的な障害は無いようなのだが、いざベッドの上で、男性として行為に及ぼうとすると、“立たない”“出せない”という事態が、少なからず発生するようになった。

今の私としては、それでもさして構わないのだが、我が配偶者としては、もう少しは一般的な夫婦の営みもしたいというのが、偽らざる心境のようだ。

やはり、子供が欲しいというのもある。

どのように折り合いをつけるべきか、今後が問われるところだろう。

さて、そんな折、巷で一躍話題となったのが、インポテンツ治療薬として注目された、かの『バイアグラ』である。

本国アメリカでもさまざまな余波を巻き起こし、日本では厚生省が認可していないために、いきおい個人輸入に頼ることになり、それにともなう金銭トラブルや、説明書が英語で読めないがゆえの副作用・事故も起こり、問題にもなった。

それでも、専門の個人輸入代行業者がいくつも現れたり、雑誌に付属した業者紹介のハガキが反響を呼んだりと、購入希望者は後を絶たないようだ。

わが家でも、これを使えば問題解決かと、一瞬思ったものだが、それだけ世間には、セックスをめぐる悩みを抱える人は多いということだろう。

むろん薬の力を助けに、できなかった行為ができるようになり、もって人生が豊かになるのであれば、それはそれで悪いことではない。

薬を使ってまでセックスするななどというのは、むしろ狭い了見だと言ってもよいだろう。

しかしながら、一連の騒ぎを見て私が思ったのは、バイアグラに飛びついた人というのは、セックスにおける【勃起→挿入→射精】という部分に、やはりこだわりすぎているのではないかということだ。

加齢や心的外傷などを原因として、そうした能力が衰えることは、ある意味で男として哀しいことだというのは、十分に理解できる。

だが私のように、トランスジェンダーとして男性性欲が減退した状態で、女性との性的コミュニケーションを考えると、【勃起→挿入→射精】は、さほど重要な要素でないことがわかってくる。

つまるところ、これらは結局、例えば極端な話、レイプの際にも起こることからわかるように、男性側が一方的に性的満足を得るプロセスであり、女性の立場を大切にしていない側面も大なのだ。

生殖というセックスの本来の目的に鑑みれば、その重要性は否定できないものの、愛し合う男女のコミュニケーションという観点からすれば、【勃起→挿入→射精】には必ずしもこだわる必要はない。

むしろそれにこだわらないことによって、本当に男女対等な、新しい性のあり方が発見できる可能性が大きい。

したがって、セックスにおける【勃起→挿入→射精】を、過剰に信仰しないことは、例えば同性愛者などにとっても生きやすい世の中につながるばかりか、広く男女のよりよい関係を見直すことにもつながるのではないかと思うのだ。

男の見栄やメンツといったものにこだわらければ、年齢や性別の組み合わせに応じた、さまざまなセックスの形が考えられる。

バイアグラに高い代金を支払う前に、もう一度パートナーとよく話し合うことが、なによりまず大切なことなのではないだろうか。